知らないではいられない?! 書店流通・販売の実情

 自分の著作が書店に並べて売られている――こういう光景は、自費出版する人が一度は思い描いてみる光景なのかもしれません。しかし、年間約7万8000冊、1日にすると200余冊もの新刊書籍が出版されている現実の中で、自費出版本を本屋さんで並べて売ってもらうには、かなり厳しい現実が待っています。

 『個人書店』でも、本の書店流通に関する質問をされる方が多いという現実がありますので、ここでは自費出版書籍の書店流通について考えてみたいと思います。まずは、日本の書店流通・販売システムはどういうものなのかの概略を示し、次に、その中で行われている自費出版書籍販売の実情はどうなのかを探ります。

*ここで言う「自費出版書籍」とは、金額の多寡にかかわらず著者が本の制作・出版にあたり金銭を負担している書籍の全てを指しています。

*この記事の作成にあたりまして『よくわかる出版流通のしくみ ‘07〜’08年版』(メディアパル刊)を参照しました。

新刊自費出版本が取次会社を通じ書店に送られるまで

書店販売本は必ず取次会社の手を経る

 本屋さんで本を売ってもらうための販売ルート、すなわち書店流通ルートでは、新刊本は、出版社(制作側)→流通販売会社(取次会社)→書店という販売経路で流れていきます。この流通システムの中心は、トーハン、日販の二大取次会社を始めとした31社の取次会社です。本屋さんに置いてある本の殆んどは取次会社の手によって配本されたものと言っていいでしょう。本を書店販売したければ、必ず取次会社に書店への配本をお願いしなくてはならないという訳です。

 取次会社の仕事は、一口に言うと、出版物を出版社から仕入れて書店に卸売りすることです。これら取次会社に本の卸しをお願いできるのは、取次会社と取引の実績のある出版社だけで、普通、口座があるとかないとかという表現をします。膨大な出版物と返本に悩む出版・流通業界の現状から、取次会社はどちらかと言うと新規口座開設を手控えさせていますので、もし口座がない出版社が書店流通させたいと考えたら、口座のある出版社の口座を借り発売元になってもらって本を書店流通ルートに乗せるということが行なわれています(例えば、星雲社さんなどは代表的代行発売会社です)。

配本冊数や配本地域決定に取次は大きな力を持つ

 全国書店のうち、どこに何冊配本するかを決めるため、出版社(制作側)は取次会社(仕入れ・流通側)に、希望冊数や希望流通地域を伝えて交渉することになります。そのときどこにどれだけ流すかの判断材料とされるのが、「商品の内容、著者、定価、装丁、類似書の実績」「出版社の過去の実績や営業力、広告・宣伝計画」「配本先書店の規模、立地、商品構成、客層、販売実績」等といった事柄です。これら判断基準をもとに、取次会社という書籍流通販売のプロがその本の売行きを予想し、各書店への配本計画を立てるのです(コンピュータ上のデータ配本やそれに手を加えたりして決定されます)。

  何 かマイナスの要因、例えば「作者は無名の新人」であったりすれば、希望仕入れ冊数が出版社の希望通りにはいかないということは当然起きてきます。いま、日本の出版業界は膨大な数の返本に日々苦慮していますが、取次会社はこの現状に対し、「いかに適正な数を仕入れ、適正に各書店に分配(配本)するか」を使命としてなるべく無駄のない配本に努めています。それ故に、出版社側(著者)の希望が受け入れられない現実もあることは銘記しておきましょう。

書店流通・販売は「委託販売制度」によって成り立っている

  委託販売制度とは、返品を許諾条件としている制度で、書店への委託期間内ならいつでも返品することが認められている制度です(新刊書の委託期間=返品期限は通常3ヵ月半〜6ヵ月です)。 書店には日々、取次会社が決めた配本計画に従って、各社の新刊本多数が箱詰めされて、半ば強制的な押し付け荷物の如くに送られてきます。冒頭記しましたように、2006年の年間新刊書刊行点数は約7万8000点ですから、1日平均200余冊もの新しく出版された本が全国書店に配本された計算になります。もちろん、「適正な配本」をするため、その膨大な数全てがどの書店にも送られて来る訳ではありませんが、多かれ少なかれ、どの書店でもその書店規模に応じて新刊書ラッシュに日常的に見舞われているということは言えるでしょう。

  一方、書店の坪当たり平均陳列冊数は500冊と言われています。取次大手トーハンの試算によれば、現在書店流通している書籍80万アイテムを全て1冊ずつ展示すると約1600坪の店舗面積が必要、それに反し全国の書店平均売り場面積は約49坪なので、書店に置ける本は大へんに限定されてくるのが実際のところ、だそうです。さばき切れない数の本の洪水、そして限られた書店スペース。書店は、送られてきては返本し、また送られてきては返本することの繰り返しです。書店が、返本システムを活用して商品棚を有効活用しようとするのは当然の話です。厳しい書店経営を乗り越えていくためには、「よく売れる本」を多く取り揃える方向に傾きがちなのは自然の流れと認識すべきでしょう。

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こんな現実の中、あなたの自費出版本はどう扱われるのか?

膨大な数の中の1冊

 以上、出版社(制作元)と取次の関係、返本制度、書店の現状を見てきました。この中から見えてくるのは、新刊書をめぐる厳しい現実です。手間隙かけて作った本、精魂込めた長年の研究、一大覚悟で世に問う文学作品などなど、どんなにか「思い」のたけを織り込んだ新しい一冊の本も、毎日200余冊世に出る新刊書のたかだか1冊にしか過ぎないのです。よほど本に魅力のない限り、或いは多額の宣伝費でもかけない限り、新刊ラッシュの中で本は見失われていきます。しかも、「あなたの本」は自費出版。この点も現実の読者の厳しい選択眼にさらされることでしょう。

 自費出版本は売れないのが現実です。この文章を読んで頂いているあなたご自身の経験に問いたいところですが、あなたはかつて本屋さんで偶然見つけた自費出版書籍とおぼしき本を“自分のお金を出して”買ったことがありますか?

負のアイデンティティ

 近ごろでは、大手出版社のいくつかも自費出版部門を持っています。こういうところで自費出版すると、出版元としてそのブランド名が入りますが、しかし出版元の名をよく見てみると「○○出版社編集室」とか「○○出版社サービスセンター」のような余計なものが付いた名前になっています。これは、自費出版物は自社企画出版物とは別物だよ、とさりげなく表わしたいということでしょう。また既存の自費出版専門出版社も、「原稿募集」の広告のためメディアによく登場していますから、たいていはその名前を見れば、自ずとそれが自費出版のための出版社だと感得され、だからこの本は自費出版系の本なのだと、一般読者にも書店にもわかってしまいます

 あなたの本が自費出版書籍であるとわかると、既にそれだけで読者は「買う本ではない」、また書店は「売れない本だ」という負のアイデンティティをあなたの本にかぶせるということになってしまうのです。

書店営業・FAX営業

 また、自費出版書籍の書き手はたいていは「無名の新人」です。国内出版物の総売上はずっと右下がり傾向で本がなかなか売れない時代に、無名の新人の本を売るには相当な工夫がいります。

 よく「わが社は書店営業します」とか「FAX営業します」という自費出版会社があります。書店営業とは、出版社の営業担当者が書店の売り場担当者のところに直接出向き、近々の新刊本を紹介し、なるべく長く書店置きしてもらうよう売り込むことです。しかし、いま書店は全国で2万店余(関東圏で約7600店)、これら全部に書店営業することはとても不可能です。だいいち、全国の出版社約4200社(関東圏で約3400社)の営業担当者は自社の企画出版物を売るために、やはり同じように書店営業をする訳ですから、当然、自費出版本の営業に出向いても苦戦することは必至なことでしょう。

 FAX営業も然りで、他社も毎日大量の営業FAX用紙を書店に送りつけている、という現実があることは忘れないでください。「あなたの本が告知されたFAX用紙」が書店の担当者の目に止まるという保証はどこにもないのです。

 

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